徒桜の待ち合わせ。

徒桜の待ち合わせ。
 桜の花びらが柔らかくひらひらと舞い落ちる。見上げると自分の背丈の何倍もある桜の木が立派に佇んでいた。ずっと変わらないその美しい姿を見るためだけに、僕は毎年この場所に立ち寄ってしまう。昔の僕にとっては嫌というほど馴染みのあったこの場所も、今ではこうして足を踏み入れても尚どこか遠く感じるのは何故だろうか。  僕の通っていた中学校には、とても大きな桜の木があった。たった一本ではあるが……いや、たった一本だからこその威厳と風格を持ち合わせる学校の主のような木。僕は桜の花が咲く時期にしか足を運ばなかったが、妙にその木を見たくなったのはちょうど中学校生活最後の夏が始まろうとしていたあの日だった。青々しい葉を茂らせ、風と一緒に夏の匂いを運んできてくれる。この時期の桜の木もいいな、なんて思っていると桜の木の陰から一人の少女が顔を覗かせた。 「……綺麗でしょ?」 彼女は僕に聞いた。 「えっ、あ、うん。綺麗だね。」 花が咲いていない桜の木を綺麗だと感じたことは今まで無かったものだから、少し戸惑ってしまった。歳は僕よりもふたつほど下だろうか。小柄でまあるい空気を纏う彼女は優しく微笑んだ。派手ではないが、端正な顔立ちをしている。 「どうしてここに来たの?」 と彼女は不思議そうに僕に聞いた。 「なんとなく……特に理由はないよ。」 少し冷たくなってしまったかもという僕の心配もよそに、そっかと返事をする彼女はどこか嬉しそうだった。
おもち
おもち
こちらでの寄り道は如何ですか?🍀🕊 ここに辿り着いてくれた貴方のお気に召すお話があれば幸いです✨ 短編小説サイトPrologueでも投稿しています📚