獏

 夢を見た。  足の小指から頭の毛先に至るまで、全身のありとあらゆる細胞に動けと念じてみたが、まるで動かない。一向に動く気配のない身体が動いたのは、ちょうど諦めたその頃である。正しくは私が動いたのではなく、地面が動いた。そして地面だと思っていたそれは地面ではなかった。  振り落とされるように地面から引き剥がされた私の眼前に獏がいた。ただ、私の知っている獏と比べ、その図体は何倍にも大きかった。その無感情な眼球だけで人の背丈ほどあり、寝転んだ私の視界では全てを収めることはできなかった。私が寝ていたであろう背中の感触を思い返すと、煉瓦のように硬いものだった。全身のあちこちが軋み、関節が固まりきっていた。  私にとってこの状況は悪夢に近く、まさしく獏の出番なのだが、この獏を食べる獏など、想像もつかなかった。  私は動けぬまま獏に食べられた。口内もまた煉瓦のように硬かったが、喉は温かかった。生ぬるい唾液を浴び、弾力のある胃の中で何度か跳ね、最後には一点に留まった。ときどき揺れ、蒸した獏の呼吸が当たり、ほとんど音はない。私は獏の胃の中で深い眠りについた。
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カテゴリー: その他
投稿日時: 2026/10/21 16:12
K
色々書いています。