「これ」彼女がパソコンを渡すときに少し、手が触れた。  長い間、ずっと握っていた手が触れただけで、こんなに思い出すんだ、というくらい、思い出した。  会うのが辛くて、一年、会わなかった。  パソコンに入っている写真のデータが欲しくて、もう、使っていないからというから、ノートパソコンを譲ってもらった。  どうせ、写真を見たら、どうしようもない気持ちになるのはわかっていたのに、失ったら、それこそ後悔するだろうから、写真にするなり、データに残すつもりで向き合うことにした。  手始めに立ち上がりに駄々を捏ね始めたあの頃の携帯に残ったフォトフォルダを写真にしたら、四千枚あって、十分の一だけを写真にした。  諭吉さんが二枚、僕の懐から去っていったけど、不思議と惜しいとは思わなかった。  サムネイルをずっと眺めていると、その時の気持ちが甦ってきて、僕は忘れっぽいんだけど、彼女が信じられない、大事なことってそんなに忘れる?私のことなんてそんなに重要じゃないんでしょ?て、責められるくらいには忘れっぽいんだけど、案外、覚えてるもんだなって思った。  誰に話すこともないんだけど。  そんなこと話されても、困るでしょ?僕は困る。
英兎