見知らぬ感情

見知らぬ感情
「違う。これは違うの」  誰かに言い訳をするように、私は呟いた。母の腹から這い出て十七年と数ヶ月。大人達からすればたかが十七年、私にとっては一千年にも感じられた十七年。今まで生きていた中で、私の胸の中に初めて巣食ったその感情。友人に相談すると、すぐにその感情の正体が分かった。有名な感情だった。友人は笑っていたが、それは私が母の胎内に置き去りにしてきた筈のもの故に酷く狼狽した。  確かにその感情に心当たりが無いと言われれば嘘になる。初めて故に正確な判断が付かずとも、その特徴から、“これが俗に言うアレか”という予想は少なかずとも付いていた。  しかし、何かのプライドからか、はたまた見知らぬ物に対する恐怖心からか、私は冒頭のように、己にそう言って聞かせた。 「ははは、お前、それ恋だよ」  狼狽える私に、友人らは無慈悲にもそう言った。私は必死に否定する。具体的な根拠を持ち得た否定ではない。ただ、それを受け入れることが怖くて、見知らぬ自分を肯定することが怖くて、訳の分からぬ言葉を発しながら必死に否定するのだ。  友人らは笑う。 「まさかお前にも春がやってくるとはな」  私は怯える。もはや声も出ない。心の中で、違う、そんな訳がないと、届く筈もないのに友人らへ届かそうと必死に叫ぶ。  −−ここで皆にも言い訳をしておこう。
月影羽
月影羽
作家志望の学生 好きな作家は芥川龍之介、太宰治、フョードル・D、東真直、夜咄頼麦etc. アイコン→みわしいば様