最期を願う祈りと知略

 梯子を下りていく途中、ダルタンは人々の息遣いや寝息を聞き取る。  ここはかつて大勢の労働者が宿舎として使っていた空間だ。広く大きく複雑で、息を潜めるのに適している。  鋼鉄の廊下に足を付いて間もなく、隻眼の少女が三人を出迎えた。彼女は紫色のボブヘアーを掻き分けて、噤んだ口の代わりに視線を泳がせる。ダルタンに向けて、そいつは誰だと言いたげだった。  意図を汲み取ったガルダは、少女の頭を撫でながら簡単な説明をする。 「アルナ、お迎えご苦労。米国特殊部隊に襲われていたところを保護したんだ……君と一緒だ」  アルナと呼ばれた少女は、眉根を潜めて感情の機微を表す。  ダルタンは二人のやり取りを聞いて、酷くいたたまれない気持ちになった。アルナとダルタンは互いの哀しい瞳を見やって、そっと目線を逸らし合う。 「マイルズ。他の同志は到着したか?」  ガルダの問いに、マイルズは表情を曇らせた。 「軍曹の部隊と、私が率いていた部隊で全てです。他の合流地点とは連絡が付かず、通信も途絶えています」
アバディーン・アンガス@創作アカ
ローファンタジーや一風変わった雰囲気の作品が大好物。 主にダークファンタジーとかサイバーパンクとか、好きな要素をごった煮した作品を鋭意執筆中です。 「好きじゃないけど面白い」と言われる作品を目指しています。 合間に書いた短編を気ままに投稿していく予定です。