お題で習作《日常編》 熱伝導

 彬が季節の変わり目の風邪を引いた。  とにかく熱が高くて、意識も朦朧としている様子だ。  兼友にはどうしても外せない仕事が入っていた。ひよりもそれに同行することになっていたから、必然的に俺が彬の看病をすることになる。  しかし、苦しそうに浅い呼吸を繰り返しながらベッドに沈み込む彬の前で、俺はオロオロすることしかできなかった。 (こういうときはどうすればいいんだろう……)  圧倒的経験不足。俺には荷が重かった。 (とりあえず、濡れタオルで額を冷やすか)  何となく看病という言葉に対するイメージでそう決めた俺は、タオルを手にして洗面台へ向かおうとした。だがその時、くんと腰のあたりに引っ張られるような力が掛かり、行動が制限される。 「……?」  よく見ると、伏せったままの彬が布団から手を出して俺のシャツの裾を握っているではないか。
小野セージ
小野セージ
ちなみにセージは男性名ではなくハーブの名前のほうです。修行のためにお題を使った短編を不定期に投稿してみようかなと。登場人物はいつものうちの子です。