406号室

      一、  車が二台、やっとすれ違えるかという細い道に沿って、家が並んでいる。どこの庭も木々が生い茂り、薄暗い。雨を吸い込んだ木の葉が、枝を重そうに撓ませている。風が吹く。木々が揺れ、水滴が驟雨のように飛び散り、乾いたアスファルトに黒い跡を残した。  木々の隙間で、蜘蛛の巣に纏わりついた雫が、朝日に輝いている。主はいなかった。 「きのうの雨で、飛ばされてしまったのかもしれない。この蜘蛛のように、僕もどこかへ吹き飛ばしてくれたらいいのに」  正人は、歩みをとめ、水晶のように光る蜘蛛の巣に見入った。  幼い頃に父親を亡くしていた。しかもひとりっ子である。当然、母親の期待は大きかった。応えるように正人は中学受験し、有名私立大学の付属校に合格する。エスカレーター式に進学し、大学では経済を学ぶ。成績は常にトップクラス。 スポーツに関しても、高校時代、バスケ部の主将としてインターハイに出場。また生徒会の役員も、何度となく経験している。大学時代も、輝かしい実績とは言えないまでも、地元の3on3で名の知られた人物として活躍していた。
べるきす
文芸短編小説をメインにアップしております。 なにかを感じ取っていただける作品を目指して^_^ もしかしたら対象年齢少し高めで、ライトではないかと思いますが、ご興味をお持ちいただけましたら幸いです☺️ 名刺がわりの作品としては「変愛」を。 もしご興味いただけましたら、少々長いですが「This Land is Your Land」を読んでいただければ幸いです。