桜吹雪を君と 上

桜吹雪を君と 上
『願いは叶う』と言っておきながら、桜の花弁が地に落ちるのはなぜだろう。 地に落ちる事によって叶う願いがあるとするなら、それは一つだけ。叶って喜ぶ人間はいないのだし、御免蒙りたいのが本音だ。 けど、それは叶ってしまった。花弁は全て落ちてしまった。 幸いな事に痛みはない。安楽死なんて信じていなかった。死人が起き上がって「痛くなかった」と言うならそうですかと信じられたものを、現実では生者による謎理論が礎となっている。最後まで心のどこかで疑っていた。 痛みがなくて本当に良かった。死にに行く女の顔が醜女だったら遺族も堪ったものじゃないだろうから。安らかに逝く様子を見て、少しでも解放される事を祈る。 反対を押し切って、死装束は桜のような桃色にしてもらった。別れ花も。最後くらいは華々しくしたいのだ。 フォトスポットと言えば縁起でもないが、一番類似している。 それにしても、呆気ない人生だった。 学校には行った。それなりに友達もできた。部活はバドミントン部で、毎度の如く県大会を一回戦で終えた。身長は普通、体重も普通。普通すぎる事が一周回ってアブノーマルとなるような毎日だ。 少女漫画みたいな恋愛はしていないし、そもそもそういう恋愛には興味がない。家に帰ってシャワーを浴び、いつまでもなくならない鼻の黒ずみなんかに嘆いている。意味があるのか分からないスキンケアをして、明日こそはと意気込んで眠りについた。
ot
ot
初めましての方、よろしければ仲良くしてくださいね