第10回N1 効果的

「ああ、俺の人生もおしまいか……。」  社宅の自室で、男はそう呟いた。軍需工場を経営するA株式会社に勤めて20年。最近は大した実績こそ残していないが、この20年間寝る間も惜しみ、命を削ってまで会社のために働いてきた。自分を切り捨てても、自分こそが会社にとって真に効果的なものを創り出しているのだと信じて戦ってきた。だから、だから社長にもきっと、信頼されていると思っていた。……昨日までは。勤務中に突然社長室に呼び出され、その場で、クビが決まった。 「本当に残念だと思っている。しかし、君にはその才能を生かしてもっと挑戦してほしいんだ。」  社長はそう言っていたが実際はただ俺が、会社の発展に邪魔だったから。どうせそんな理由だろう。畜生め。この20年、ただ会社のために働いていた。確かに、会社のためになっていたと思っていた。それでも、結局のところ、俺は必要なかった。最期に殺風景な部屋、若き日の表彰状と社長の隣で笑う過去の自分を一瞥し、男は呟く。 「俺は……なんのために生きてたのかな」  そう言って男は社宅のベランダから飛び降り、煙に覆われた工業地帯に別れを告げた。  A社の本社ビルの最上階、社長室の中で、田村真喜夫は座っていた。戦争による需要拡大を考え軍需産業に手を出して早30年、少しでも会社の業績を上げ、黒字を増やすために四苦八苦してきたが、結局のところ最も効果的なのは不要な支出を減らすこと、給料だけ高く働かない古株を切ることだと気づいたのだ。情は黒字につながらない。仲良しこよしだけでは、会社は維持できないのだと自分に言い聞かせる。今日も削減のため、“無駄”な友人を減らすのだろう。無駄……か。創業当初、肩を組んで笑う男たちの写真を見ながら、彼は乾いた声で笑ったその矢先、窓の外がやけに明るいことに気づいた。日の光にしては明るすぎる。“それ”は絵の具をこぼしたかのように広がり続け、やがてビルも、工場も、全てを塗りつぶした。 「成功!!」
除草機1号
除草機1号
基本超短編を書きます。ストーリーは何となく決めます。新参者ですがどうかよろしくお願いします。