指切り男

 そいつは突然現れるんだ、夕方、太陽が眠りに落ち、焼けた色の空がだんだん黒に染まり、月が鮮明に見え始めた頃に、姿は毎回異なるらしいが、大抵の場合は、黒のスーツに赤のブーツ、顔が見えないほど深く被ったシルクハット、まあ、それはそれは奇抜な見た目をしている。道に立ってるだけならいいのだが、卑怯なことに、やつは子供を狙って、頼み事を持ちかける。初めての頼み事は非常に簡単なものらしいのだが、引き受けてしまえば最後、次々に頼み事をされるんだ、それも回数を重ねるごとにどんどん難しくなってく。そしてついに、達成できなくなっちまうと、奴は、手に持った小さなナイフで、子供の指を切り落としちまうんだ。  宮本優子は、まあ可愛らしくて、優しくて、それはそれは良い子供だったよ。 「困っている人がいれば助ける、そうしなければ人間として失格なのだ。」  どうも、優子の優しさの根源は、母親に言われたこの言葉にあるらしい。まあ、俺から言わしちゃあ、こんな言葉は偽善でしかねえのだがな。でもともかく、優子は偽善でなく、本心でこの言葉に生きてたんだ。こんないい子、俺としちゃあ幸せになってほしい他ねえのだが、そうは行かなかった。優子の優しさは、奴にとっての格好の餌食だったんだ。  忘れもしねえ、月曜の放課後だったな、優子は友達と別れて、1人で家に向かって歩いてたんだ。赤みがかってた空も青黒く染まり、充分に月が見てる暗さになってた。優子も暗闇は苦手なもんでな、早足で家に向かってたんだ。でもよ、奴はそんな状態でも、優子が優しい子であることに変わりないことをわかってたんだ。 「僕は蟻んこが大嫌いなんだ。優子ちゃん、蟻を1匹踏み殺してくれ。」  奴の言葉を聞いた優子の反応は、「はい?」だった。そりゃあそうなる、見ず知らずの不審者から唐突に、意味のわからない頼み事をされたんだからな。でも、優子は頼みを飲んだ。親切心ではなく、恐怖心から。優子は奴が恐ろしくて、たまらなかったんだ。優子の恐怖は、頼み事の内容もさることながら、奴の行動にあったんだ。 「ゆーび切りげんまん嘘ついたらハリセンボン飲ーます、指切った。」  奴は、優子の手を強引に掴むと、小指と小指を絡ませてこう言ったんだ。
ノラ戌
ノラ戌
黒鼠シラのサブです。 アイディア掴むための、行き当たりばったりな小説投稿する予定です。 ちゃんとしたのは黒鼠シラのアカウントで