夜の底で、君の名前を呼んだ

夜の底で、君の名前を呼んだ
 プロローグ 夜の街を走っていた。 サンダルはいつの間にか脱げて、足の裏はガラスを踏んだみたいに痛くて、血が滲んでた。それでも走った。追いかけてくるのは、あの男の怒鳴り声か、母のヒステリックな悲鳴か、それとも、逃げ場のない現実そのものか。  どこか遠くでパトカーのサイレンが鳴っている。でも、誰も私を助けてなんかくれない。助けて、なんて叫んだって、誰も聞こえないこの世界で。  
柏木 智
柏木 智
恋愛ものが好きです。あと感動ものとか。小説家で言うと有川浩さんや住野よるさんの作品が好きです。