左様なら

左様なら
 朱鷺よ。朱鷺のまま死ね そう言った婚約者を男は穏やかに見つめていた。女は血を吐き、艶のなくなった髪を無惨に散らばせて、男を探した手が彷徨う。男はその手に小指を握り込ませた。男の手からは血がとめどなく溢れている。  「ときにぃちゃん」 気丈に振る舞っていた女の表情がふと崩れた。その形と温もりを彼女は忘れるはずもなかった。  男は自身の小指を匕首で切り落としたのだ。 「小指の一つや二つ、私が失くしたところで何も困らぬ。おゆう、お前にやろう」  淡々と朱鷺は言い放った。脳裏に母の言いつけを破って見にいった赤ん坊の泣き顔と、同じ人なのかと確認するために頰をつついた指をしゃぶられた温かさがよぎる。何より、夕暮れの道で、彼女が自分の小指をひっとしと握る様子が懐かしい。  「お前に死に顔を見られとうないのだ」
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Us「うず」です。よろしく。 「よよ」だったものです。 高一