【超短編小説】「ゆうれい」

 町の隅に小さな画材店がある。外観も店内も古ぼけている。  一人の少年が入ってくる。少年は絵の具が並べられている棚の前に立つ。  棚には色とりどりの色々な色の絵の具がある。  少年は棚の隅の一本のチューブを手に取る。そのチューブには「ゆうれい」と印字されている。  少年は蓋を開ける。そしてチューブを軽く握る。  チューブの先端から、透明の絵の具がにゅるりと出てくる。  少年は蓋を閉め、それをレジに持っていく。レジの中にいる店主の老人が少年に声をかける。 「お母さんを描くのかい」  少年は何も答えない。少年は小銭を出す。老人は小銭を受け取り絵の具を袋に詰め、少年に手渡す。  少年は去る。老人はそっと目を閉じる。
六井 象
六井 象
短いものを書いています