ほおずき弓

 お盆がはじまる頃、田舎では墓や仏間に飾る花を買うのに躍起になる。乳白色から黄色、の大きな菊から甘い匂いの花やら夏に出回るリンドウ──長持ちするやつはだいたいすぐなくなる。全て、ではないが、いい花は早いもの勝ちと言わんばかりに、遅れてきた客どもを笑うかのように弱々しく、半日も保たない小さな花だけがぽつんと桶に残される。  あれがない、これがない、と負け組の客どもは店員たちを困らせた。  早く来ればいいだけの話じゃあないのかね。無いものは無いのだよ。  律子は無いものねだりの客どもを見た。溜め息ばかりの客と生返事ばかりの店員を視界の端っこに収める。そんな律子の手には、しっかりと瑞々しい花の束が握られている。咲きかけの百合の花が小さな鼻を生意気にもくすぐった。 「へっくしょい」  女らしからぬくしゃみをハンケチで収めた。人前では女らしく、しおしおとしているのだが、今ので鼻水がぴゅっと出てしまったが素知らぬふりをして拭う。  耳が熱っぽいのも知らぬふり。  律子は花選びに勤しむことにした。
本条凛子
本条凛子
少しずつ小説を書いています。 載せる予定だった小説の草稿がどっか行って泣いた