バレンタイン・メランコリー

バレンタイン・メランコリー
 神谷 苺(かみや いちご)はキッチンに立ち、随分と長い時間スマホと睨めっこをしていた。開かれたページには「簡単、手作りチョコの作り方」「誰でもできる」「もう失敗しない」などの文字が並んでいる。この地に生まれて十六年間、包丁すら握った事の無い彼女。キッチンカウンターから見えるリビングにいた父親と母親はおぼつかない娘の様子に気が気では無い。  ソファに座っていた父親は開いた新聞の横から、心配そうに苺を見つめていた。 「母さん、大丈夫かな……」 「何か煙上がってるけど」 「大丈夫よ、私に似てあの子はお料理の才能はあるはずだから」 「ならよけい心配だ」  いつになく集中している苺には両親の言葉は耳には入らない。彼女は腕を組み、真っ黒に焦がしたチョコレートを見つめながら、去年の帰り道、友人の恵美(めぐみ)から受けたアドバイスを思い出す。 「広野君に聞いたよ!チョコレートはビターが好きなんだって!」 「そうなんだ」 「……で、ビターって何?」
猫 夢丸
猫 夢丸
初めまして、夢丸と申します。小説初心者の二十代半ばの社会人ですが、空いた時間にチクチク見たり書いたり。宜しくお願い致します。