タイムカプセル

夜の屋上の空気はぼんやりとしていた。 彼はフェンスにもたれたまま、スマホの録音アプリを開いている。赤い点が、規則正しく瞬いていた。 「これ、未来に送れるらしいよ」 唐突にそう言って、録音ボタンを押す。 「もしもし、二年後の俺。ちゃんと覚えてるか〜」 風がマイクに当たって、言葉がざらつく。 僕は少し離れた給水タンクの横でその様子を見ていた。僕達の距離はいつもこんな感じだった。 「今日、屋上に来た理由とか。たぶん忘れるだろうし」 彼は笑うでもなく、ただ続ける。 「でもさ忘れたほうがいいことって、あるよな」
叶夢 衣緒。/海月様の猫
叶夢 衣緒。/海月様の猫
綺麗事が救いにならない夜の話。 正しさに置いていかれた感情と、 救われなかった青春の残骸。 優しい言葉ほど、いちばん痛い。 2023年 2月27日start 3月3日初投稿