眠り姫

眠り姫
愛してる。その一言を僕はいつも待っている。 君が目覚めなくなってから10年。君は僕の幼なじみで、誰よりも僕が愛している大切な人。可愛い可愛いお姫様。君はいつも僕に付いてきて、本当に僕が居なければ何も出来やしない。だから僕がいつも一緒に居てやった。傍に居続けた。そんなとき君は僕にとある言葉を伝えてくれたんだ。こんな風に。 「大きくなっても一緒にいようね」 僕は嬉しかったよ。いつも受け身な君からそんな言葉が出てくるだなんて。僕もちゃんと返事をしたんだ。 「君のそばに入れるのが嬉しい。ありがとう」 あの夏の日。君はどうして僕を庇ったんだろう。いつも僕の後ろを歩くことしかない。そう思っていたのに。あの日君は初めて僕の1歩前に出た。僕は君の背中を見たその瞬間、感情がぐちゃぐちゃになったんだ。驚き、嬉しさ、悲しさ、寂しさ、焦り。そして危険だと思ったそのとき、君は既に車に轢かれていたんだ。そして僕は後ろに押されていた。灼熱に照りつけられたアスファルトの上に手をついていた。火傷なんてどうだっていい。擦り傷の痛さなど微塵も感じていない。君が死んでしまう。それだけが許せなかった。 死ぬな。死ぬな。死ぬな。 感情とは裏腹に、僕は運転手が慌てながら逃げていく車の後方ナンバープレートの写真を撮った。そして救急車を呼び付け、僕は救急搬送に付き添い、君を待ち続けた。
維千 / ichi
維千 / ichi
お時間のある時に貴方を1000字の世界へ。 ご高覧いただきありがとうございます。 【人狼ゲーム】11月14日より連載中