翠雨

翠雨
 少し、過激な内容及び表現がございます。   苦手な方はお気をつけくださませ。  桜の前で泣くといい、と彼に言われた。二つ歳下の児だった。口元をほのかに和らげて、持っていた箒を取られた。なぜ、と問うても穏やかに微笑うだけ。まだ九つとは思えぬほど、大人びた目をしていた。早く、とせかされ桜の元へと送られた。桜を見るのはいいが、何に泣けというのだろう。花が散ることだろうか。その儚さに泣けばいいというのだろうか。  私はほとほと困り果てた。自分には風情というものがなく、何が哀しいのか分からぬのだ。不運なことに、その日は風がよく吹き、桜は止まることなく散り果てていく。その風に吹かれて、ふと思い出した。父が、風が強く吹くとき、悲しげな表情を見せたこと。丹精をこめて育てたとしても、簡単に生活ごと飛ばされしまう大黒柱の抱える苦しみ。  父の口が閉じれば、母の笑みが消え、妹の無邪気が殺されていく。自分を寺へ出した父の決意。母がその背中に隠れて泣いていた。あぁ、もう戻れぬのだと知った。
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Us「うず」です。よろしく。 「よよ」だったものです。 高一 アイコンは「ゴリラの素材屋さん」様の、フリー画像にございます。