拝啓、名も無き仕事たちよ(2021.10)
わたしの職場は最高だ。抱かれたくもない男に飲まされたウォッカくらいに。
シュレッダーに吸い込まれていく雑紙を眺めながら、北春はそんなことを考えていた。
頼まれた紙は段ボール一箱分に上る。指先の感覚で八枚ほどめくり、そこからさらに二枚を加え、挿入口へと押し込む。するとモーターの駆動音はわかりやすく元気を失くし、半ばで力尽きた。北春はため息をつく。
上司はこの業務を何分で終わる計算でいたのだろうか。そもそもこの仕事は業務時間には含まれているのだろうか。あるいは、嫌がらせでしかないのか。
「北春、これも頼んだ」
積まれた紙の上に束が落ちる。紙の山はバランスを崩し、床に広がっていく。その一部始終を、他人事のように眺めることしかできなかった。胃を締め付ける痛みに、なるべく無関心でいるように努める。が、叶わなかった。北春は眉を寄せる。
「あの、自分でやってもらえませんか。もう一台ありますよね。シュレッダー」
「なんだよ。ついでにやってくれたっていいだろ」
上司は、まるで思春期の娘でもいさめるように答えた。
「そうなんですけど、わたしも自分の仕事があるんで」
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カテゴリー: その他
投稿日時: 2021/11/9 23:28
最終編集日時: 2021/11/9 23:32
飛由ユウヒ
〔ひゆうゆうひ〕小説で誰かの心が救えたらいいな、と願いながら書いてます。名古屋の同人文芸サークル「ゆにばーしてぃポテト」にて執筆とデザインと広報を兼任。『ブラッケンド・ホワイトフィッシュ』ステキブンゲイ大賞一次選考通過。#100円文庫 を毎月10日更新!
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