彼女はバスに乗らなかった。

彼女はバスに乗らなかった。
 桜も落葉しきって、少し肌寒くなってきた朝方。  いつもの通り僕は小さな木造のバス停に行く。  いつもの通りそこには女性がいて、片手にサイダーを持っていた。  彼女が現れたのは丁度七日前。殆ど利用者のいないバス停だから、誰かがいるのは珍しくてよく覚えている。  いつもぼんやりと空を見上げている彼女は、雲のように白いワンピースを着ていて、凛と透き通った肌は風が吹けば溶けてしまいそうだった。  その姿を一目見た時、美しい、と思った。  一時間に一本程度しか来ないバスに、彼女は乗らない。待っているのは降りてくる誰かなのだろうか。  その日の夕暮れ時、帰りのバスから降りた僕は、やはりまだいる彼女に思い切って声を掛けてみた。 「誰かをお探しですか?」
夜ヶ咲
夜ヶ咲
ファインダーの向こう側、ずっと君を探している。/140字小説とその下書き https://mobile.twitter.com/yorugasaki