彼女はバスに乗らなかった。
桜も落葉しきって、少し肌寒くなってきた朝方。
いつもの通り僕は小さな木造のバス停に行く。
いつもの通りそこには女性がいて、片手にサイダーを持っていた。
彼女が現れたのは丁度七日前。殆ど利用者のいないバス停だから、誰かがいるのは珍しくてよく覚えている。
いつもぼんやりと空を見上げている彼女は、雲のように白いワンピースを着ていて、凛と透き通った肌は風が吹けば溶けてしまいそうだった。
その姿を一目見た時、美しい、と思った。
一時間に一本程度しか来ないバスに、彼女は乗らない。待っているのは降りてくる誰かなのだろうか。
その日の夕暮れ時、帰りのバスから降りた僕は、やはりまだいる彼女に思い切って声を掛けてみた。
「誰かをお探しですか?」
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カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2021/10/17 6:26
夜ヶ咲
ファインダーの向こう側、ずっと君を探している。/140字小説とその下書き
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