Boys project

 今年のBoys project――通称『ボイプロ』は世界各国で、東西南北で、天上天下で、数十年に一度巻き起こるか起こらないかの社会現象となった。ネットのトレンドランキング総なめに始まり、歴代最高視聴率を更新しかけ、各々の「推し」をデビューさせようの会があちらこちらで発端する。番組放送後四ヶ月経ったいまでも勢いは劣ることを知らず、新参アイドルグループ『LIPS』へのファンレターや差し入れ、勿論オファーも絶えない。  仮眠でもとろうかと、ハルヒは控え室に備え付けてあるソファに寝そべる。その際にまざまざと思い出される、あの目まぐるしい一ヶ月間の記憶。 「金のため、億のため、金、億、億万長者……」  まぶたの裏に浮かび上がる、不合格者の涙と無念の表情。そして強く、鮮明に、脳裏に焼き付くサックの嘲り顔。あれはあまり、いい思い出じゃない。  今年のボイプロは、多くの意味で社会を揺るがし、注目を浴びた。始まる前からも既に、終わった後も未だに。そして生まれたLIPSが、その波を不本意か本意か継承していくだろう。 □□□  すごいすごいと周りを駆け回るのはハルヒの妹たち。長女の雪葉と次女の琴子の興奮を落ち着けながらも、自分自身、いま心拍数が三桁いってるのではと思ってしまうくらい高揚していた。 「やーやー書類選考通っただけで、まだなんも始まってないからな」  自分でそうは言いつつ、内心通っただけでも奇跡だと舞い上がっている。  ハルヒはかの人気番組『ボイプロ』に応募した参加者の一人であり、たったいま一次書類選考に受かったというメールが届いたところだった。合格者の顔写真一覧に自分の顔が載っていることに安心しつつ、緊張はより一層高まる。
肋骨