目
突然、一本の木が生えたんですよ。
大して大きくもない町ですから、お互いにそれなりに顔も知れていましてね。特にご近所さんなんかとはよく話します。ですから、小さな変化にもすぐに気が付いて、一日をそれで明かしたりするものなのですが、これからお話するのは、そんな町で生まれ育ってきた人生の中でも、一等忘れられないお話です。
その日私は珍しいことに朝早く起きましてね、折角なので散歩でもしようかと外へ出ました。やはり早朝の時間には人も少なく、捨てられた町の独り歩きなんてちょっとした想像に浸りながら歩いていると、どうやらあまり見かけない装いの方が道を歩いていましてね。それが、ローブ姿にフードを深く被っていて、一体どんな容貌なのかも何歳なのかも皆目検討がつかないのです。ですが、特に私は何をする訳でもなく、また向こうも私に見向きもせず、ただすれ違うだけでした。そういった奇妙な邂逅をきっかけに、その日は始まったのです。
先程のローブを脳の端に残したまま、私はふらふらと歩みを進めていました。するといつの間にか町を一周し、一番見慣れた風景がそこにあったのです。しかしどうでしょうか。何やら少しばかりの違和感があるのです。その突っかかりが何なのかを探すため、私は立ち止まってよくよく辺りを眺めました。するとあったのです。
一本の木が。
私はそこらの風景なら見紛うことはありません。ずっと暮らしていましたから。ですから気が付いたのです。私の家からすぐ近く、一組の夫婦が住まう一軒家、そこには塀が設けられ、それなりの広さの庭があります。そして、その庭に全く見覚えのない木が生えていたのです。昨日までは無かった木でした。つまるところ、
突然、一本の木が生えたんですよ。
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カテゴリー: その他
投稿日時: 2026/2/23 13:26
じゃらねっこ
ねこじゃらしが好きなので、じゃらねっこです。