泥の上に立つ 3

泥の上に立つ 3
 「あいつ、ルマに馬鹿みたいな拷問して殺しかけたって。それで闇医者に掛かって余計なお金使ってさ、ホント馬鹿」  「ほんとほんと。私は最初からアイツのことやばい奴だと思ってた。ボスが路上の人間はみんな家族だ、なんて言って仲間にしたけど、アイツがここに現れたときのこと覚えてる?アイツ体中に痣あってさ、あの痣、子供をレイプしようとしてその父親に半殺しにされたんだって。噂だけど本当なんじゃないかな」  喉が渇いた。嗅ぎなれた野菜スープの香りの中に、血と脂の臭いが感じられた。女たちの会話する声が、頭の内側に反射し、長く余韻を残して消えてくれない。  「サンはまだそこの外廊下で座り込んだままなの」  「今日はもう動かないと思う。あの子にとって唯一血の繋がった家族だもの。あら、雨が降ってきたわ」  拷問を受けてから何があったのだろう。あれからどれほどの時間が経ったんだ。躰中が痛んだ。まるで痛みの塊になってしまったみたいだ。頭が重く、瞼を開く気が起きない。息を吸う度に拷問での傷口が熱く脈を打つ。  「ぁぁ…」  「ルマが起きたわ。どう…言って上げようかしら。やっぱり私には無理だわ。ねぇ、あなたが言ってあげてよ」  「やっぱり私の仕事になると思ってた。今日のスープ少し頂戴よ」  「ええ、それでも良いから」
山口夏人(やまぐちなつひと)
山口夏人(やまぐちなつひと)
好きな作品 「K君の昇天」梶井基次郎 「中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃」三島由紀夫 「狐媚記」澁澤龍彦 「阿修羅花伝」赤江瀑 「芽むしり仔撃ち」大江健三郎 「ぬばたまの」須永朝彦 「火星植物園」中井英夫 「半島を出よ」村上龍 「トビアス」山尾悠子 「獣の奏者」上橋菜穂子 「有頂天家族」森見登美彦 「宝石の国」市川春子 2005年6月11日生 ある文学賞に応募したけど、箸にも棒にもかからなかった作品を挙げてます。