夜が明ければ

夜が明ければ
夏の終わりの夜、校舎の屋上には風が吹いていた。 文化祭の準備を抜け出して、僕らは並んで夜景を見下ろしていた。 「なあ、卒業してもさ、こうして集まれるかな」 りとが笑いながら言った。 「無理だろ。お前はバンドで東京行くし」 「お前は美大だっけ?遠いな」 笑い声が少し悲しい夜空に溶けていく。 屋上から見える街の灯りは、まるで手が届きそうで届かない星のようだった。 あの夜、僕らは未来に怯えながらも、まだ何にでもなれる気がしていた。 ――あれから十年。
叶夢 衣緒。/海月様の猫
叶夢 衣緒。/海月様の猫
少し投稿頻度落ちてます。 2023年 2月27日start 3月3日初投稿