もう一度会えるのならば

要らない、要らない、要らない。……そう思って居た。居た、筈なのに。 「……離して」 雑音混じりに声が反芻する声。声の正体は幼馴染である。その声は雑音混じりに反芻しては泡沫のように消えゆく。消えゆく声を、音を聞きながら。か細く、言う。 「……離れないから、離して」 嫌な感覚。温もり何て知らない。見えない。生温い関係は嫌いではないが、好きでもない。唯、一つ。言える事があるとするのならば。『分からない』と言う事だけだ。 「……本当。だから離して」 離して。 『離さないで』 その日は雨が降っていた。分からなかった。何故、震えているのか。分からなかった。何故、嗚咽が漏れていたのか。分からなかった。何故、応えてくれなかったのか。分からなかった。 否、分かりたくなかったのかも知れない。受け入れたくなかった。受け入れてしまえば心が堪えられず、壊れてしまう事を知っていたから。だから受け入れずに来てしまった。なのに、おかしいと思った。常識を逸脱している。確かに私はそう思った。そう、私は受け入れずに来てしまったのに。いつの間にか『貴女』は私の心に寄り添ってくれていた。
井上雛
井上雛
暖かくて儚い、そんな話を紡ぎたい。 閲覧してくれてありがとうございます。 『貴方』に届きますように。 開始 7月13日 2022年。 もう一度会えるのならば。連載中。