恋の栞

恋の栞
 電車の中で本を読む人が減った気がする。  通勤ラッシュ、と言うほど混んでいるわけでもない、ローカル線の朝の車内。  ふと文庫本から目を上げて、辺りを見渡すが、本を読んでいるのは自分を含めて数人だけ。だいたいの人はスマホを見ているか、俯いて寝ているかのどちらかだ。  最近はスマホがあればなんでも事足りるから、当たり前か。  そう思いつつ本に目を戻した瞬間、電車が大きく揺れた。いつもより揺れが激しいので、どうやら今日の運転手は新米のようだ。  立っていた私は転びそうになり、慌ててつり革を掴む。その拍子に、本に挟んでいた栞が滑り落ちた。  風に舞う葉のように落ちた栞は、斜め前に座っている男性の足元にはらりと着地する。 「あ」  思わず声が出た。心臓が跳ねる。
夏木 蒼
夏木 蒼
短編小説しか書かない人です twitter→ https://twitter.com/summer_blue_04