恋の栞
電車の中で本を読む人が減った気がする。
通勤ラッシュ、と言うほど混んでいるわけでもない、ローカル線の朝の車内。
ふと文庫本から目を上げて、辺りを見渡すが、本を読んでいるのは自分を含めて数人だけ。だいたいの人はスマホを見ているか、俯いて寝ているかのどちらかだ。
最近はスマホがあればなんでも事足りるから、当たり前か。
そう思いつつ本に目を戻した瞬間、電車が大きく揺れた。いつもより揺れが激しいので、どうやら今日の運転手は新米のようだ。
立っていた私は転びそうになり、慌ててつり革を掴む。その拍子に、本に挟んでいた栞が滑り落ちた。
風に舞う葉のように落ちた栞は、斜め前に座っている男性の足元にはらりと着地する。
「あ」
思わず声が出た。心臓が跳ねる。
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カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2021/10/13 23:06
夏木 蒼
短編小説しか書かない人です
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