羅生門 続

この物語は、「下人の行方は、誰も知らない」という作者が考えた言葉によって、終わりを迎えた。 でも実をいえば、下人は老人の着物を引剥をしたあの羅生門から、そう遠くへは行っていなかった。下人は、羅生門を抜けて真っ直ぐにある、鳥羽の律の海沿いで、老人から剥いだ着物を見つめながら、放心していた。下人は、自分が盗人になってしまったことに対してまだ事実を受け止めることが出来なかった。時折、右頬にある膿んで大きく腫れ上がった赤い面皰を触りながら、下人は「盗人になってしまった」と一人零すのだった。 しかし下人は、こうも思うのである。 「これは仕方の無いことだ。どのみち遅かれ早かれこうなっていただろう」と。 そう思いながらも、相変わらず下人は、右頬の今にも膿が弾けそうな面皰を触りながら、放心した顔で着物を見つめていたのである。 その時、大きな音で下人のお腹の虫が鳴いた。下人は、その音に導かれるまま鳥羽の律を歩き回っては食物を探した。何分か歩くと、ふと下人の目に海辺で生の魚を食う一人の人が映った。 人がいるとは、なんとこれまた珍しい。下人がそう思ったのもほんの束の間で、下人は、右頬にある膿をもって大きく腫れていた面皰が潰れた音を聴きながら、その人から食料を奪った。下人は慣れていた。たったの二度の盗みで、全ての善を殺してしまったのである。 それから下人の行方を知るものは、本当に誰もいなくなったのである。
雲丹丸 音夜
雲丹丸 音夜
なんにもできない