墨と猫

墨と猫
第1章 初めての針 放課後の商店街は、夕陽のオレンジ色に染まっていた。女子高生の彩花は、制服のスカートを揺らしながら、いつものように路地裏の小さなタトゥースタジオ「墨猫」の前で立ち止まった。ガラス窓越しに、黒猫のシルエットが描かれた看板と、店内で彫り物をしている女性の姿が見える。 彼女の名前は凛さん。28歳の彫り師で、この街ではちょっとした噂の人だ。烏羽玉色のウルフカットヘアーに、鋭い目つき。左腕には自分で彫ったらしい蛇のタトゥーがうっすら覗いている。彩花は、凛さんが彫刻刀のような細い針を手に持つ姿に、いつも心を奪われていた。 「また見てるだけ? 入るなら入っちゃいなよ、お花ちゃん。」 突然、凛さんの声がガラス越しに響いた。彩花はびくっと肩を震わせ、顔を赤らめた。いつの間にか凛さんが窓の近くに来ていて、ニヤリと笑っている。膝の上には、店に住む黒猫のクロが気持ちよさそうに丸まっていた。
くろねこ
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主に百合小説を書きます 甘酸っぱいひと時の青春