それが許された世界
静かな空間。何も見えない、広いのか狭いのかも分からない、真っ暗な空間。誰の声も聞こえない、寂しい空間。どこが端とも真ん中とも言えない空間に、私は立っていた。
私は今上を向いているのだろうか、それとも下を向いているのだろうか。何も見えない、何も感じないこの空間では、私が自身でどんな体制をしているのかすら分からなかった。
そんな中、「ポツン」という音が私の耳を撫でた。
それは雨の雫でも落ちたかの様だった。
ポツン、ポチャン。
静かな空間で、それは唯一の音だった。何も無いと思われたこの場所は、音なら存在するのだろうか。そう思って、私は声をあげようとした。
しかし、それは「しようとした」に終わってしまった。何度も何度も声をあげようとした。あでも良い、いでも良い。何のためかも分からなかったが、ただ何か、何か声をあげたかった。
ポツン、ポチャン。
声も出せない空間で、その雫だけは音を許されていた。私はなんだか悲しくなった。悲しいのに声が出せないので、寂しくなった。
ポツン、ポチャン。
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カテゴリー: その他
投稿日時: 2024/4/11 12:32
月影羽
作家志望の学生
好きな作家は芥川龍之介、太宰治、フョードル・D、東真直、夜咄頼麦etc.
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