私の杖
愛する妻は、眠りにつくかの様に、安らかに目を閉じた。目を覚まして、私に微笑むことはもうない。
病院の一室で、妻は長い長い人生の終着点へと辿り着いたのだ。
私は庭から採って来た、桔梗で花束を作り、妻の枕元に添えた。妻が一番愛していた花だからだ。
昨日の妻が、最期に見たいと言っていたからだ。まさか見納めをする前に、向こうへ逝ってしまうとは思いもしなかった。私は案外あっさりと、この状況を飲み込み、医師にその後を託した。
しかし、妻との幸せ過ぎた思い出は、心にしっかりと刻まれている。私が最期を迎えるその時まで、忘れ去られる事はない。
妻の葬式中も、私はどこか上の空であった。もう妻がこの世にいないと、実感が沸かないのだ。今隣に妻がいる、そんな錯覚を起こすのだ。
夜、ふと目を覚まし、隣を見ると空白のみがあるばかり。私はそういう時、涙を流してしまう。別に悪い事では無い。涙を流せば、ストレスが軽減すると言われている。妻は、私にとってストレスだったのだろうか。いや、妻が私の隣からいなくなった事が、ストレスなのだろう。
ずっと二人で、座ってテレビを見たソファー。今となっては、無駄に大きなソファーに成り下がってしまったが。
私は一人、ソファーに座り、テレビをつけた。お笑い番組をやっていた。しかし、私の頭の中には、芸人の漫才が入ってこない。感情を一言で表すのならば、虚無と言えば当てはまるだろうか。
愛想の良く、よく気の利く妻は、もういない。静寂が、私の胸を締め付ける。
4
閲覧数: 83
文字数: 649
カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2023/3/2 4:14
最終編集日時: 2023/3/5 9:18
まる
学生です。
思いついたのを文章化しているので、内容は浅いです。
マイペースに投稿するつもりなので、よろしくお願いします!