音読

 小学生の頃、僕は絵に描いたような真面目ちゃんだった。  無口で人とあまり喋らず、黙々と勉強することが唯一の正義だと信じて疑わなかった。  宿題を忘れたら気が狂うくらい自分を責めていたし、担任の先生に書くよう促された「今学期の目標」に、自ら「克己」と書いたことを今でも覚えている。  そうした過剰な規律はある程度まで自分を引き上げることをしてくれるが、望まない努力は同時にある種の不安定さを心に育ててしまったように思う。  そんな中でも物語の授業だけは好きだった。  登場人物の心の機微を拾い、言語化する作業は機械じみた日本の教育の中でまだ手触りがあった。  特に得意だったのが音読だ。  どのクラスにも1人、普段無口なくせに、授業中はきはきしゃべる浮いたやつがいただろう。  それが僕だ。
いわごん
いわごん