夕日の記憶
僕が覚えているのは、町が夕方に染まった道路だけだった。
僕が忘れてしまった記憶。部屋で夕焼けを眺めていたら、その記憶が不意に蘇ってきた。
夕方に染まった道路がどこまでも続いていた。ひたすらにお腹が空いていた。何か食べるものはないかと、ウロウロと歩いていると、大きな車が横を通り過ぎた。当時は車だと思えず、なんだか大きい鉄の塊が向かってきて、本能的に危ない感じがして、必死で避けた。
しばらく歩くと、「にゃーにゃー」と中から聞こえる家があった。僕も「にゃー」と返すと、「来るんじゃない」とその中の猫の一匹が忠告した。でも、せっかく仲間に会えたのに、と窓から中を覗くとたくさんの猫たちがいた。窓をトントンと叩き、「ねぇ食べるものある?」と聞くと、猫たちはこちらを振り返った。猫たちは僕以上にガリガリにやせ細り、あきらかに何も食べていないようだった。猫たちは僕を見つけるとこちらの窓の方へ群がってきた。「タベモノ、あるか?」と僕に聞く。「僕もタベモノ食べたい」と返すと「そうか、ないか」と奥へ戻った。「ねぇ、ここの人間は?」と聞くと、猫たちは視線を落とし、「いたけど。もういない」とつぶやくように言った。「中に入れてよ」と言うと、猫たちは猫用の入口を開けてくれた。
中に入ると、とても嫌なにおいがした。僕は一匹の死んでいる猫を見かけ、必死で猫用の入口に戻り、家を出て、ひたすら走った。あの人達、多分、仲間をたべてる。と必死で逃げた。
しばらくして、また車が横を通り過ぎた。車が通りすぎる時カランカランと音がして、そちらを見ると、人間が捨てたらしき缶詰が転がっていた。中を見ると、少し中身が残っている。サバだ。僕は貪り食った。やがて雨が降り出し、高架下で雨宿りをしつつ、まだ味のする缶詰をくわえていた。水たまりが出来て、水を飲もうと僕の顔を見ると、ガリガリの猫が映っていた。雨が上がり、どこまでも届きそうな夕焼けが広がっていた。
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カテゴリー: その他
投稿日時: 2025/10/16 13:59
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