方舟は間に合わない

方舟は間に合わない
「価値の有無に問わず私は全てを覚えている。隠し事は意味を成さない。あなたが売店から盗んだチョコチップ・クッキーの袋、こっそり家を抜け出し、ドロシーと会った夜。全てを知ってる」 亜麻色の髪が美しい、異国情緒を感じさせる少女だ。 水車が至る所で回る村だった。名を知られる事はない。それなりの都会に住む少年少女は、そこを異世界と形容するだろう。 年中漂う果実の香りは判別をつけられない。ある時はオレンジとグレープ。日によってはオレンジに代わってベリーが強まり、訪問客の鼻腔を未知の酸味でくすぐる。 村民は、日に焼けた肌、太陽の光を吸った純白のシャツで統一されている。異邦人を慈愛の腕で抱きしめ、その頬に口付けをする。来客を拒まない事が教えなのだ。 「あなたを歓迎します。ようこそ、アシルへ」 村民に案内され向かった先は村長の住居だった。
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