アンフェア・アフェア

アンフェア・アフェア
「いま、きみの家の前にいるーー」 嘘を吐くように、砂が溢れていた。片手に収まりきらない、携帯電話。コールはワンス、指先にじっとりと汗が染み込んだ。耳元に、流れるように告げられる、ある男の言葉。飲み込めないまま、熱を発していた。なんど、同じことを繰り返すつもりかと、薄ら紅が浮き出る。それでも、かたんと、いう。 軽さのあるドア、白い塗料の上から聴こえてしまう。決して、開けるべきではない。手のひらを押し付けて、目の前にいる男のことを考える。酷く、揺れる意識が、はくはくと喜んで。じゃりっと、サンダルは外の気配を感じていた。 「なんで、いて」 開けてしまった、玄関に蛍光灯がちらつく。影のある前髪が、ぱらぱらと。外は僅かに寒く、それでいて男からは見知らぬ匂いがあった。距離は保たれて、ドアノブに掛けた手がある。目線が、ゆっくりと逢い始めてしまった。甘い心臓の、静かなる息の引き取りかたを知っていた。 「じゃ、なんで開けたんだ」 悪い夢を見ているように、リピートする。首を深く項垂れる、騙すことが得意な男。クラシックな装いが、カフスの擦れる音に合っていた。蛍光灯に似つかわしくない、カフスに映る、わたし。より惨めな目の奥と、色こけた表情があった。 「入れてほしい、少しだけ」 過去の情欲に、棺桶がなかった。そのままで、腐り落ちるはずのテンポが、鳴って。まとわりつく、外の気配。また、揺れる腰の具合に、密かにうんざりして欲しいと、願うばかり。下唇が、言い訳を探している。靴底にざらつく砂と、喉がきゅっと締まっていた。 「どうか、もう」
西崎 静
西崎 静
コツコツ書いていきたいと思っております。よろしくお願いします!成済