貴方のそばで

貴方のそばで
 私は吹奏楽に入りたい。 そう決めていた。そしてあの人に出会ったんだ。部活見学の日に出会ったあの人は綺麗だった。こんなにも綺麗な人がこの世にいるんだと思った。私は予定通りその日に入部届けをもらって家に帰った。 私は鋭い目つき、余計な一言を言ってしまう、思ったことをすぐに言ってしまう。我ながら最悪な性格だと思うし、浮いていると思う。それでもどうしようもないし、これが私なんだと割り切っていた。どうせクラスでも部活でも浮くんだから変に期待はいないでおこう。そう思っていたのに、あの人はこんな私と仲良くしてくれた。心の中でいっぱい理由を浮かべた。あの人は二年生1人だけで寂しいんだ。あの人は優しいから私を放っておけないんだ。あの人は初めてできた後輩を可愛がってくれているんだ。そうやって私が特別ではない理由を私が期待しないように、勘違いしないように理由を考えて納得させていた。でもいくら割り切っていたとは言え1人は寂しいもので、私はあの人を好いてしまった。これが人として好きなのか、恋なのかはわからない。あやふやなそんな気持ち。だけど幸せだった。お互いにひとりぼっち同士で、支え合った私たち。でもね、ひとつだけ違ったの。先輩はクラスに居場所がある。大切な友達がいる。それがほんの少し許せなかった。私だけの先輩でいてほしい。私だけを見ていてほしい。だから、だから、私はいくら邪魔だと思われようとも、もし言われたとしても、絶対に先輩から離れない。部活では隣をキープしているし、学校が早い日は一緒にお昼を食べるし、先輩が入っているソフト部に時々お邪魔している。そうやって先輩の『特別』をキープしてきた。私はこれからもずっとそうしていく。私と同学年の子たちも、新しく入ってきた後輩たちも、私には敵わない。だから大丈夫。そして、先輩との最後のコンクール。これで先輩との正式な部活は終わる。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だもしかしたら部活が終わってしまえば、この関係は終わってしまうかもしれない。私が積み上げてきたものが一瞬にして崩れ落ちてしまうかもしれない。それが怖くて悲しくて。私は先輩にコンクールの日、キーホルダーをプレゼントした。私が作った、世界に2つだけのお揃い。口には出せないけれど、先輩にそっと呼びかける。ねぇ、先輩。私がいて良かった?私はいい後輩でいれた?他の人よりも『特別』でいられた?全て答えは『YES』にして?私の世界で1番特別な貴方。 コンクールが終わっても先輩は名残惜しいようで普通に部活に来た。普通と言っても練習はしずに自分の使った楽器を掃除して、後輩に引き継ぐためだった。そして先輩は1人で楽器を掃除するのは寂しいからと言って、私と一緒に掃除をしたがった。よかった。そして先輩と2人きり。真夏の外で楽器を洗う。嬉しかった。幸せだった。そして好きだと言った。先輩はただありがとうと言った。愛の告白なのか、先輩後輩としてなのか彼女はわかっただろうか。これが同性じゃなければ何か変わっていたんだろうか。これからも私は先輩を好きでい続ける。先輩が想いに応えようが応えまいがなんでもいい。ただ私は先輩の『特別』を先輩への『好き』という気持ちをただただ大切にしたいんだ。
華