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ミレイと山裏の隠れた茂み道を抜けて、山を下りると、閑静な住宅街のある通路に出た。ガードレールを飛び越える。人影は殆どなく、一台停車する車があるのと、犬を二匹首輪で躾して散歩する初老の女がカーブミラーの前を通って行くくらいだった。山の麓の道路に沿った並木の間から覗く湖に続く河口付近の河原に、クレーン車や荷搬送用トラックといった数台の車両と数人の現場作業の関係者と見れる者の姿やおそらく祭の役員の男女の姿がある。きっと今日の晩方に行われる、灯篭流しの準備や段取りの企てを確認し、作業に取り掛かっているのだろう。河口表面の波は、澄んだ青色をしている。
「ねえそれで、どこに行くつもりなの?」
「それは行ってから教えるから、とにかくついて来てよ。こっちよ」
そんな風に返答を受け流すミレイに戸惑いながらも、ユウヤは彼女の成すままの歩く方向に翻弄され後をついて行く。やがて住宅街を抜けて、今度は煉瓦造りが主な建設物で構築された通りに出た。それは店々が立ち並ぶアーケード街だったが、昨日行ったゲームセンターやレコードショップや本屋等の連ねる商店街チックな風貌とは一線を画し、別の世界のような雰囲気を創り上げていた。まるでイタリア北東部のアドリア海に浮かぶ海上都市のベネツィアの高級街にでも来たかのような、異国味を肌で覚える街並みが二人の前に広がってあった。
「ねえミレイ、ここはなんなの?」
「え、ユウヤもしかしてここも来たことないの?」
うん、はじめてだけど、とユウヤは横を通り過ぎる男女の服装を見やる。歳は三十代から四十代にかけて見られ、女はラトーレ製のベージュ色のリネン素材の丈長のワンピース、男はグレーに揃えたトリルビーと体型にぴっしりと合わせたスーツとパンツをカジュアル着こなしていた。両者とも、異国情緒溢れるセレブに見える。
「ミレイは来たことあるんだ?」
「ううん、私も実は初めて」
ええっ、とユウヤは彼女を向いて声を出す。さっきはまるで来たことあるような感じで僕に言ってたのに、と驚く。ごめん、思わせぶりで、ミレイが恥ずかしそうに弁解する。でも、なんでいきなりこんな所に?ユウヤが不思議に聞くとミレイは、ちょっと、行きたい店があってさ、と足を進ませ目線を通路の先に向けながら答える。
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カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2025/9/30 7:35
最終編集日時: 2025/9/30 14:44
アベノケイスケ
小説はジャンル問わず好きです。趣味は雑多系の猫好きリリッカー(=・ω・`)