ドライ・マティーニと塩辛

 大山善助は今、孫娘の結婚式から帰ってきたばかりである。  大いに疲れた。長いあいだ車に揺られていたのもそうだが、なんといっても結婚式とそれに続く披露宴での身の置き場のなさに閉口したのだ。  結婚式は閑静な家屋の一室で、両家と仲人だけが出席し、三々九度、高砂や、と続く。家の前では、黒山とは言わぬまでも人々が障子の隙間から中をのぞき、新たな生活を始めようとする若き二人の恥じらう様を伺う。つと白無垢の嫁が顔をあげようものなら、器量がどうの、化粧がどうの、いやまあ綺麗だこと、と口々につぶやく。たとえ別嬪であろうとなかろうと芝居のせりふのように人々は同じ言葉を口にする。  一通りの式題が済むと、嫁側の母親が玄関に出る。本日はお集まりいただきましてありがとうございます。せっかくですのでお忙しいとは存じますが、どうか若い二人の門出をお祝いしてやってください。人々はやはり口々に、器量よし、綺麗だこと、とつぶやきながら敷居をまたぐ。  披露宴が始まれば、すっかり赤ら顔になった男がこれまた真っ赤になった婿に言う。 「どうやってモノにしたんだい、まったく。なにか手があるのなら教えてもらいたいもんだね」  下品な言葉さえもこの場では許される。婿は赤い顔をさらに赤くし、ひとこと「惚れたら押すしかありませんよ」などと言う。まったく、と男が呆れ顔をするのも決まりきった芝居のよう。あとは呑めや唄えの大騒ぎとなり、閉宴におめでとうと言い残し去っていく。  ……という印象を善助は持っていた。友人たちの結婚式、披露宴もそうであったし、妻の須真子との時も同様である。照れながら、みなさま、須真子さんをきっと幸せにしてみせます、とも言った。
べるきす
文芸短編小説をメインにアップしております。 なにかを感じ取っていただける作品を目指して^_^ もしかしたら対象年齢少し高めで、ライトではないかと思いますが、ご興味をお持ちいただけましたら幸いです☺️ 名刺がわりの作品としては「変愛」を。 もしご興味いただけましたら、少々長いですが「This Land is Your Land」を読んでいただければ幸いです。