妄
 午前七時、霜ノ平駅の三番ホーム。  北側の階段の、やや手前に立つ。  この時間になると、蝉たちも一斉に目を覚ますのか、線路の向こう、フェンスのすぐ外側の木々から喧しい鳴き声が響き出すようになる。  首に掛けたタオルの端を掴んで、眼鏡をよけながら頬と額の汗を拭うと、自分が益々年寄りに近づいているのだと実感して、情けなくなった。  世間はすっかり行楽シーズンに入ったようだが、しがない会社員の自分には関係ない。  まるで追い討ちをかけるみたいに、見たくもない家族連れの楽しそうな笑顔が、卑屈の火を灯した心に油を注いでくる。  腐ってはいけないと思いつつも、毎日の循環に光明など見えなかった。  ふと。  檸檬の香りがした。
積山 精々
積山 精々
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