オルゴ

オルゴ
 電車を降りて駅を出ると、駅前の広場がいつも以上に賑わっていた。  色とりどりのオーナメントで飾り付けられた無数のテントと、それを照らす淡いオレンジ色の電飾。店に並ぶのはクリスマスの雑貨や本、それにクリスマスに食べる外国のお菓子やホットワインなど様々だ。  暖かい服装に身を包んだ人々はそれぞれに肩を寄せ合いながら歩いていて、誰もがこの上なく幸せそうに見えた。  この風景の中に自分がいるのは不似合いだろう。  ここ数年のクリスマスを思い出してため息がこぼれる。私はもうずっと、クリスマスとは無縁の人生なのだ。  そのまばゆいばかりの煌めきに満ちた空間を少しでも早く通り過ぎたくて、私は歩みを速めた。  ようやく広場の出口か見えてきた時、ふととある店が目に入った。  他の店のような立派なテントもなく、きらびやかな飾りも電飾もない。そこにあるのは煤けた木の机と、年季の入ったトランクケースだけ。  トランクの中には他の店同様にいくつか雑貨が置いてあるようだったが、ここからでは暗くてよく見えない。店主と思しき年配の男性は、その机の向こうで椅子に座ってコクリコクリと船を漕いでいる。店も店主もまるで商売っ気がない。
あまもよい
あまもよい
 真夜中の通知ごめんなさい。