餓狼の笛 第一章 交換

餓狼の笛 第一章 交換
一  スーはその日、もう眠るところだった。いつものようにランタンに灯された家の灯りを一つずつ消して、木製の丈夫な扉に鍵をかけ、窓の鍵を全て閉めて二階へある寝室へ向かう。  この家は羅山という山の奥深くにあった。訪れる者もない、簡素だが丈夫な家で、スーは女一人で暮らしていた。  スーはこの家が好きだった。この家は激しい羅山の雨風からずっとスーを守ってくれていた。  スーは十五の時に親代わりだった祖母を亡くし、それから二十五の今までひとりぼっちだったが、不思議とこの家と二人で生きてきた気がしていた。  今夜はとても風が強く、雨もひどかった。今も風が窓枠を揺らしガタガタと音を立てている。灯りを消し、扉の鍵をかけ、あとはもう窓の鍵を閉めるだけだった。いそいそと窓へ向かう。  今日は下町へおりて野菜を売りに行っていたのでひどく疲れていた。羅山はとても山道が険しく、住み慣れているスーですら山を下るのは一苦労だった。  窓からはいつも通り高くそびえ立つ木の幹や、雨風に打たれる花が見える。今日のうちに野菜を売り払っておいて良かったとスーは思った。  スーはふと森の奥の方に目をやった。太い木々の間からチラチラと小さな明かりが見える。一体なんだろう。もしや、人だろうか。しかしこの家に来客が、しかもこんな夜更けにやってくるなんて考えられないことだ。
なつめぐすみれ
なつめぐすみれ
ファンタジーBLを書いています。そのほかにもBLの話を書きます。