第六話 仮免

その日、俺は奇妙なLINEを受信した。差出人の名前は「unknown」となっており、アイコンも人のシルエットのデフォルトである。 メッセージには「明日の午前二時。いつもの交差点に来ていただけますでしょうか。持ち物は特に不要です。よろしくお願いいたします」と書いてある。 いつもの交差点はホロ子さんと出会ったあの場所のことだろう。つまりこれはホロ子さんからのLINEなのだろうか。そう思い何度かこちらからもメッセージを送ったが、一向に返信はなく既読もつかなかった。 仕方なく俺は指定された午前二時に家をこっそりと抜け出し、パジャマのまま交差点へと向かっている。シンと静まり返った深夜に外を歩くなんて初めてのことだったが、思ったよりも遥かに怖かった。別にこんな怪しい誘いに乗る必要などなかったが、おそらく世界で自分だけに起きているであろう非日常的な展開にどこかワクワクしていたのだ。 「やっぱやめときゃよかった……」 後悔先に立たずとはよく言ったもので、後悔というのは文字通り後からやって来るものだ。俺の中に存在する人類としての本能が暗闇や孤独を恐れているのがはっきりとわかる。スタスタと聞こえる自分の足音にさえビクビクとしてしまい、こんなにも自分は臆病だったのかとガッカリしてしまう。 そんな精神状態でようやく辿り着いた交差点。しかしホロ子さんの姿はどこにもない。いつものようにこちらを見るなり軽口を叩いてくれたらどれだけ安心出来ただろうか。 キョロキョロとあたりを見回してみるが、やはり制服姿の少女はいなかった。 誰かのイタズラだったのだろうかと思い、背を向けて家に帰ろうとしたそのとき。
吉口一人
吉口一人