第一回ノベリ川賞『チシカ』

第一回ノベリ川賞『チシカ』
山々、深き霧に覆われて。 これ一切の貌を見ず。 我よ目凝らせども。 見えぬて額、打ちにけり。 やうやう、白き裾は広がりていたり。  女、息を吸うこと十数えたころのことである。この徒労に終わる呼吸とやらについて深く考えこんだ。当然のことながら、考える間も、また数というのは数えているのである。十と一つ、二つ。三つのときに一度、意識ひとつで止められる生命活動をやめ、ほんの少し経てば、また四つを数え始めた。  「息を止めては苦しいか。なるほど、あの人はわざと息を止め、咳をしたのではなかろう」  ひとつ頷いたと思えば、数を数えるのをやめた。
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Us「うず」です。よろしく。 「よよ」だったものです。 高一 アイコンは「ゴリラの素材屋さん」様の、フリー画像にございます。