意識

 男は跳ねたリズムに眼を細める。  顎髭をなぜながらの思考には明確さは無く、眼に映る物は無感動に在るだけだった。  部屋に流れる音楽は変化し、ようやく男は僅かながらに心を浮かせた。  一人の酒には慣れていたが、たまには女を楽しみたいとも思っていた。  恋を知らなかった。  異性を見る眼は冷ややかで、線の丸みの滑らかさに不思議を観るだけだった。  その事を特に悲しく思った事は無く、むしろ硬質な楽しみに満足感さえ覚えていた。  壁には絵が掛けられていた。  下手ではないが、特に深い技巧があるとも思えなかった。  しかしながら、男の周囲にまとわりつく茫漠たる気には妙に似合いの絵に思われた。
チド
チド
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