白湯

 ときどき、自分が怖くなる。それは、現実的な恐怖とは異なる、心霊的な、理解のできない恐怖であった。自分のことが他人のことのように、長年連れ添ったこの身体が知らない何かに支配されているかのような、そういった類の恐怖であった。  幼いときからずっと身体の弱かった私は、一番の理解者である幼馴染と結婚してはや二年が経った。私たちは子宝にも恵まれ、妻も安定期に入っていた。病弱な私を懸命に支えてくれる妻との間にできた初めての子供である。それはそれは喜んだものであった。私たちの結婚生活は驚くほど順調であり、マリッジブルーどころか喧嘩の一つもない。死ぬまで、この生活が続いてほしいと願った。そんな私の考えに反比例するかのように身体が意志を持ち始めた。  その恐怖ともいえる身体の欲望を私はうまく言語化することができなかった。ただこのままで過ごしたいという願いを強く否定するかのように、身体が変化を求めている気がした。変化を拒めば拒むほど、身体は強く変化したがった。  そんなこんなで得体の知れない恐怖に悩まされているうちに病弱さも相まって倒れてしまった。 「過労とストレスですね。何か悩みとかありますか。おすすめのカウンセラーをまとめて紹介しておきます」  淡々と業務的に医者からそう告げられた。  そうか、過労とストレスか、とあっさり受け入れられた。くだらない悩みを払拭するために仕事に打ち込みすぎたのかも知れない。  私は仕事を在宅に切り替え、できるだけ休息の時間を増やした。それから、医者に紹介されたカウンセラーにも顔を出してみようと思った。 「それじゃあ、行ってくるね」 「あんまり無理しすぎないでね。私も在宅で働けるから、仕事休んでも大丈夫だよ」
K
色々書いています。