雨の隠れ家
ひどく雨が降っている。
僕は視線を手元の書籍から窓の外に移した。
幾重にも重なった厚い雲が時間感覚を奪い、鈍い照明にすら目が眩む。締め切った窓越しでも聞こえるほど激しい雨音が、やかましく文芸部室に響いていた。
炎天下でも大雨でも、文芸部の活動になんら影響はない。読んで書いての繰り返しのおかげで、八月下旬になった今でも僕の肌は白く艶めいている。
空調が効いて快適なこの部屋とは違い、おそらく外には水あめのようにどろりとした湿気が蔓延っていることだろう。それだけで帰宅意欲が奪われてしまう。
「まだ帰らないんですか?」
僕は正面の席から飛んできた声に視線を向ける。雨音にかき消されそうな細い声を出した彼女は、不機嫌そうにノートパソコンの画面を見ていた。
肩口で切りそろえられた髪は静止画のように背景に固定され、息遣いすらも感じられない。
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カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2021/10/7 15:52
まみむめもず
基本的に読み専でございます。
たまにお話を書いているとかいないとか。
今一番欲しいものは、生きてるだけで褒めてくれる友達です。
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