白鷺

白鷺
 夏頃になると、白鷺の群れが空を覆う。そしてザアッと押し寄せる濁流の河を通り過ぎて古い樹の上に留まるのである。木の上に留まっている白鷺らは、その美しい白毛に首を埋めて長い嘴を此方に向けている。そうして此方を窺っている間に、沢山の鷺達が翼を広げて飛んできて、木の枝を足で掴んで留まった。中には忙しく翼を広げる鷺も居れば、うとうとと微睡む鷺も居た。人々は彼らを舂鋤と呼んだり、雪鷺と呼ぶ。それでも、私はあの風貌を見て思わず白鷺と言ってしまうのだ。ワサワサと動く彼らを見ていると陽が射して、濛々と上がる温泉の煙を照らした。途端に覗いた青空は瑠璃のように磨かれて街全体を澄み渡らせている。水溜りに反射したその青さ、何処迄も広がる冷たい色が映って心の悪意が流れていった。濁流に流れてザアザアと。そうして愉快な気持ちで鷺達を見ていると、突然、鷺が翼を広げて脚を伸ばした。そして鏡のように透き通る水面に細い足をつけて屈む。白鷺は首をSの字に曲げて縮めると、魚を見つけて嘴で咥えた。そして上を向いて丸呑みし、満足そうに水面を歩くのである。私はこれほどに鷺が自由奔放な旅人だと思ってもいなかった。肩を吊り上げた鷺達はバラバラと並んで魚を呑んでは、田を散歩したり木の上で休んだ。その隣には胸毛を伸ばした青鷺が留まり、怪訝そうに白鷺達を見下ろしている。隣にいた、嘴の黄色い白鷺は何やら不愉快そうに彼を見た。青鷺は硝子玉のような眼を向けて、青い濃淡の風切羽を向けた。 「グアッ」そう嘲るように鳴く。白鷺は厭そうに外方を向くと、翼を広げて飛び去っていった。また青鷺は「グア──」と鳴いて此方を向いた。青鷺は両瞼の上から紺の毛が流れており、ピンと飛び出ている。首も斑模様で、処女のような白鷺とは大違いであった。そうしてまた彼は灰の翼を広げて川へと両脚を向ける。彼は白鷺の群れを脅かして魚を食らった。なんとも傲慢な、愚かな鷺なのだろうか。苛立って爆竹を取り出そうとしたが、白鷺の純粋無垢な眸に心を打たれて手を止めた。軈てある絵を思い出す。それは葛飾北斎の描いた一筆画譜の中にある群鷺という鷺の絵で、一羽一羽の個性がよく現れているのだ。まさにその景色が今、眼の前にある。雪のような白い毛に包まれた天の遣い達が、謙虚にも木の上で眠り、川で魚を呑んで暮らしているのだ。
愛染明王
愛染明王
身の廻りに住んでいる動物達の一日を書き留めている。好きなものは菌類を含めた生物全般、そして女性。作品を此処に書き留めては読み返し、日々修正を重ねている。