第8回N1 英雄の遺書
『きっと、僕は死ぬだろう。国王から命を受けた。これから行くのは生きて帰れるような場所では無い。だから、ここに遺書を遺すことにした。』
「エールを一つ」
とある街の一角にさえ、その波は広がっていた。少々表から外れた土地に腰を据えたあまり目立たぬその酒場は、近場の街人からの根強い人気に支えられ、今日も今日とて活気溢れる様子である。しかし、今日の活気の渦の中心には、普段とは違った目が潜んでいるようだ。
出入口から見て最奥の一つ手前、窓際の座席に構えた私は早速酒を注文した。すると、酒を待つ間手を空かしていた私の耳に、ひとつまみの喧騒がまぶされた。
「聞いたか?英雄様の遺書の話」
近頃の話題と言えば、かの英雄の遺書が見つかったという話で持ち切りで、皆口を開けばそのことについて話している。この王国で英雄と言えば、ただ一人しか存在しない。この国の民であれば誰しもが必ず知る存在であり、皆が一度は憧れる存在。彼は勇敢で、強く、紳士的で、彼を賞賛する意見を並べれば、ひとつの書が編纂されると言われる程の人物だ。しかし、そんな英雄様の生きていた頃の話で残っているものは数少ない。だからこそ、皆の憧れである英雄の遺書ともなれば、言うまでもなく話題になるだろう。
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カテゴリー: ファンタジー
投稿日時: 2025/12/8 15:10
最終編集日時: 2025/12/11 22:05
じゃらねっこ
ねこじゃらしが好きなので、じゃらねっこです。