冬 ー5ー 完結

時計の針は頂点を過ぎたあたり。廊下はまた騒がしくなり始め、右から左、左から右へと慌ただしい足音が聞こえる。その中で、一つだけ、異質な足音があった。静かに、忍び足で歩いていると思ったら急にスタスタと歩き出したりして、扉の前をうろついているようだ。縋るような気持ちで思い切って扉を開ける。同時に、騒々しい人並みが、目と耳から入って来る情報の大部分を占めた。思わず目を細めた僕の視界の端で、一つの人影がピタリと動きをとめた。バチリ、と視線が交差する。逃げ出そうとするその人影の肩を掴んで全力で引き寄せる。廊下の喧騒が一瞬消えた気がした。気づいたときには、僕の腕の中に梓がいた。痛いほどに熱い肌。早鐘のように空気を震わせる鼓動は、どちらの物だったのか、はたまた、どちらもの物だったのかは定かではない。 「梓っ」 梓に促され、保健室に戻る。沈黙が続けば続くほど、口を開きにくくなることは学習していた。 「梓……。」 視線を今度は意図的に揃える。お互いの、瞳の中の心情を探り合うような視線も、不快ではない。次は梓が口を開いた。 「昨日……は、どうしたの?」 自分でもわからない。分かったところできっと、目を見て言えるようなことではないんだろう。質問に答えることができず、一つの言葉を連ねることしか出来なかった。 「……ごめんなさい……。本当にごめん。」 再度俯き、言葉を紡ぐ僕の眼前に、少し黒ずんだ上履きが入ってくる。僕の背中には2つの確かな熱。それが梓のものだと気づいたとき、またしても視界が淡く滲んだ。 「謝らないで、俺も……悪かった。」
あい
色んなジャンルに挑戦したいです!温かい目で見守って下さい…。