おもいで鼈甲飴

おもいで鼈甲飴
   僕の住んでいる町の駄菓子屋には、人気の商品がある。  それは、お店のお婆ちゃん手作りの鼈甲飴だ。  見た目は黄色く透き通った普通の飴なんだけど、甘いだけでなくどこか不思議な味がして町中で評判になっているんだ。  僕は学校帰りにお店に寄っては、友達と一緒に舐めながら、中央広場に置かれた街頭テレビを観るのが好きなんだ。  数十年振りに帰ってくると、町の風景は一変していた。だが、駄菓子屋とお婆ちゃんだけは変わっていなかった。  休日になると子供と鼈甲飴を買いに行き、店の前に置かれたベンチに座って舐めるのが、僕の習慣になっていた。  口中に不思議な味が広がる度に、初めて舐めた頃の記憶が甦り、目の前に子供の頃の風景が現れる。
くろせさんきち
くろせさんきち
短い物語を書いてます。 400字小説サイト「ショート・ショート・ガーデン」https://short-short.garden/author/808809 ショート・ストーリー集『造園』https://kakuyomu.jp/works/16816452219823406519