空白の選択
男が一冊、また一冊と本を手に取り、表紙と裏表紙をじっくりと眺めていた。棚の本全てを確認したかと思うと、今度は背表紙を凝視し始めた。
「店長、こいつやばくないですか」
コンビニのバックヤードで監視カメラを見ていた店員が店長へ尋ねた。書店で表紙をじっくり確認する人はいないこともないが、コンビニで本を長時間吟味する人はなかなか珍しい。
「いやぁ、でも万引きとしてるわけじゃないからねぇ」
「いや、こいつ昨日もおんなじことしてましたよ。連日平日の昼間からコンビニの本眺めてるやつやばいに決まってるじゃないですか」
店員がどれだけ強く言っても店長は「いやぁ」と煮え切らない態度であった。すると店員は痺れを切らして男の元へと注意に向かった。店長は慌てるふりは見せつつも店員を止めず、寧ろ感謝の表情を見せた。
「お兄さん、ちょっとお兄さん」
店員に呼びかけられた二十代かそこらの男は店員の声に耳を傾けることなく書籍コーナーを凝視している。男は若く凛々しい顔つきをしていた。しかし、無精髭と寝癖だらけの髪がその格好良さを打ち消していた。
「お兄さん」
男は何度目か分からない店員の声掛けにようやく顔を上げた。と言っても顔を向けただけであり、書籍コーナーに寄った前傾姿勢はそのままである。
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カテゴリー: その他
投稿日時: 2025/6/13 6:25
K
色々書いています。